「倫敦ノ焼芋ハドンナカ聞キタイ」

【芋の食べ方】
明治三十四年十一月六日、正岡子規は、
ロンドンに留学している漱石にあてて、
「僕ハモーダメニナツテシマツタ」
とはじまる手紙を書いた。
前回、その手紙を話題にしたのだが、
(ちなみに、漱石も下宿にひき篭もり、のちに『文学論』として
まとめられる研究に没頭していた。
その没頭のなかで神経衰弱に陥り、悪戦苦闘していたのである。
それだけに、苦しい息をしながらも、ロンドンの焼き芋の味を尋ねる
子規の余裕というかユーモアは、漱石にとってちょっとした救いになった
にちがいない。)
その手紙で子規は、「倫敦ノ焼芋ハドンナカ聞キタイ」と漱石に尋ねた。
 手紙の子規は、「実ハ僕ハ生キテイルノガ苦シイノダ」と言う。
また生きて再会することはできないだろうともいう。
そんな苦しい状態を話題にしていながら、子規は不意に焼き芋を持ち出す。
そんな話題の転換の仕方に、この人の独特のユーモアや
とても健康な精神がうかがえる。
この人は、どんな場合にも思いをひとつに集中させず、むしろ、
自分の思いを常に拡散させる。
たとえば、明日をも知れない苦しい状態のなかにいても、
周囲のようすなどに眼をやり、
思いつくままに発言したり行動したりする。
一つのことにけっしてとらわれない。
 手紙をもらった漱石は、
「僕ハモーダメニナツテシマツタ」
という告白に胸をつかれただろうが、突然に焼き芋の味を聞かれると、
こんどは急に緊張がほぐれる感じがしたにちがいない。
(愛嬌。.....わかります。(u u ) )